魔王からの贈り物

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誰に向けたものでもない、魔王の独白が続く。 「お前の手に渡るには、長い年月を要した。私は様々なものを失った。当然の代償だ。だが、全てはこの日のため。一日の誤差もなく……全て、全て計画通りに進んだ。終わってみれば早かったものだ」 焼かれ形を歪ませた魔獣の剥製だけが、独り静かにそれを聞き届けていた。 「私を慕った家臣を、民を、妻たる妃をも皆殺しにし、世界を恐怖で支配しようとした私。そしてその恐怖が消え去った平和な世界。間もなく、人々はお前を英雄として崇め讃えるだろう」 もう体が言うことを聞かない。魔王の視界に映るものは殆どなくなり、代わって闇が訪れる。彼にとっては、とても穏やかな闇が。 「そう、それこそがお前自身の掴み取った、最高のプレゼントだ。雄大だろう! お前の手に入れたものは、生まれ変わった新たな世界、丸々一つだ!」 掠れる笑いも、次第に力を失っていく。 弱々しい声で、魔王の口は最後の言葉を紡いでいく。 「この話を聞いたら、お前は私を身勝手だと罵るだろうか。それとも子煩悩だと笑うだろうか。恐らくは前者であろうな、くくく……」 炎がさらに伸びる。 動かぬ魔王はその腕に抱かれ、徐々に輪郭を薄れさせていた。 「誕生日、おめでとう。息子よ、新たな世界を……エゴにまみれた愚かな父の、最後の贈り物を、いつまでも大事にしてくれ」 やがて全ては赤く包まれ、世界を脅かす魔王とその城は炎の中に消えていった。
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