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「どうしよう……」
ともあれ、行動を起こさねばなるまい。
こうしている間にも、既に開始から二ページを数えようかというところに差し掛かっているのだ。もっともこれは転載なので、部誌の紙媒体ではタイトルから数えてもまだ一ページの終わりに差し掛かろうかという所なのだが……いや、メタ発言は控えよう。
無駄な思考にばかり頭が周り、肝心の体は行動を起こしかねる。私はただ『魔王』と書かれた表札をまじまじ見つめていた。
予想外に訪れた唐突な最終局面だが、私は勇者だ。遅かれ早かれこの存在に立ち向かわねばならないのに違いはない。単にその時が早まっただけのことである。
だが、なまじ見た目が普通の家である分、どうにも踏み込みにくいのだ。いっそインターホンでも鳴らしてみるか。
「……まさか、罠……?」
表札に対して一方的に睨めっこを仕掛けながら、やがて私の思考はある予想をはじき出した。なるほど、そう考えれば合点がいく。
この外見は敵を欺き、油断させたり混乱させたりするのが目的なのだろう。さすが魔王、姑息な手を使う。
だが、そうと分かれば迷うことはない。臆せず油断せず、突入あるのみだ。
緊張感に欠ける菓子折りはここに置いていこう。でも勿体ないから帰りに回収しよう。
「よし、やるぞ……! そう、私は勇者だ!」
「……お前、他人の家の前で何やってんの?」
「ひィぇあッ!?」
心臓が口から飛び出るかと思った。実際に出たのはなんとも珍妙な恥ずかしい悲鳴だけだったのだが。
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