第1章・松本拓也視点

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楽しそうにしていた表情を曇らせ話し始めた内容に、あたしは悔しさが込み上げた。 『最低ね』 断る意思を彼女なりに精一杯表しているのに、 【最近のイジメは悪質だから】と言われると美和ちゃんは渋々掃除をしているって!? 言わなくても舌打ちをされ無言で見られ続けられると怖くてやっぱり掃除を!? 『イジメられる事を思うと100%断れとは言えないわね』 辛かった中学・高校の頃のあたしが思い出されてく。体育館裏で見つけた隠されたノートや教科書。 ごみ置き場の近くにあった上履き。 美和ちゃんみたいに当番でもないのに押しつけられ、1人きりで教室を掃除していた夕暮れ。 そしてクラスの半数以上の男女からの冷たい視線。 探しだしたノートや教科書を両腕で抱きしめ怯えるあたし。 学校でのイジメを最初は家族に内緒にしていたわ。 だけど笑わなくなったあたしを、探し物をして埃がついた制服や汚れた靴を見て家族は【何があったんだ?】と問いただして。 その時渋滞中の車の流れが少し動いた為に前の車に少し車間を詰め、またブレーキを踏む。 祝日の夜は必ず渋滞するわね。 助手席の美和ちゃんは不安そうな顔を崩さないままで黙ってた。 あたしの過去を言うべきかしら? ためらわないで、吉井美和はたぶん言いふらさない。 『あたしも同じだったのよ』 『えっ』 彼女は声を出していたわ。 『あたしも同じだったのよ』
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