三章

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 4 夜子が目覚めると真っ先に窓の外を確認した。二階から路上を見ると既にスコップを常備した近隣の人々が集まっている。天気はいいというのに朝から億劫であった。  雪掻きをしなければならなければならない。誰に言われるまでもない。雪国の暗黙のルールだ。  夜子は、防寒具を装備する。花たちと戯れるのは残念ながら後回しであった。  雪掻きの道具を手に歩道に降りていくと、既に両脇にある店の従業員が、雪を溝に落とす最中であった。  ひんやりとした空気に朝日が射す。  冬の寒さの中で、彼女は雪を押し退けた。  歩道の雪を避けた頃には、周囲との挨拶も終わり、小腹が空いてきた。そろそろ朝食を取ろうかと事務所に戻りかけた彼女の携帯電話が鳴る。  携帯電話を見ると友人の佐川美奈子からお茶の誘いが来ていた。  本日は土曜日で、仕事関係も午後には一段落する。たまにはお喋りも良いだろうと、夜子は美奈子に連絡を返した。  雪掻き道具を片付けて、事務所に戻ると美奈子からの折り返しが来る。  何時もの喫茶店だ。全国にある安い珈琲といえばそこしかない。喫茶店の名前はトレーン。他にサンドイッチとホットパイが有名で女の子が暇潰しに集まるお洒落な場所だ。
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