六章

13/41
前へ
/257ページ
次へ
 思い返したところで、明確な答えは出てこない。  薄情なのだ。  軽薄なのだ。  そんなことを考えながらバイクを走らせる。  過ぎる景色は、農道だ。雪に埋もれた田圃が寒々しい。田圃の向こうにある山に生えている木々は白い花弁が付いていた。  全ての花弁が溶けて消えてしまえばいい。神埼は呪うように唱える。  花弁が溶けてしまえば、ハーブのような薬も直ぐになくなる。  それでいい。その匂いは地獄への導きだ。染み込む前に焼いてしまうべきなのだ。  無くて良いのだ。  あんなものは。  人を不幸にするだけだ。  だからこそ、不思議てならない。  なぜ、神は、それを許すのか。  人間には計り知れない謎だろう。  バイクを止める。交差点の信号が赤だった。  神埼は、左右の光景を確認する。  生きている筈の人間も無機質な機械も、規則に従い、動きを止めている。  これは人間が作った規則だというのに、なぜだろう。  神の作る規則には必ず穴があるように思えてならない。  柄にもなく考える神崎の耳に視聴覚者への信号の移り変わりを知らせるアナウンスが入る。  人間が動き出す。  神崎は人間達を目で追いかける。  彼らはどこを目指すのだろう。  これも神埼には考えることのできない領域であった。
/257ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加