六章

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「仕方ないよ。こんな生き方を選ぶしかなかったんだ。キリエさんにしろ、進藤にしろ。選択肢は自分が決めるんだ。周りはチャンスを振り撒くだけで選んだあとは自力で歩くしかなくなる」 「それも寂しいと思いますよ」  孝太はクッキーを遠慮なしに口に入れた。 「寂しいか。そうかもしれないし、そうとも思わない」 「どっちが本当なんですか?」 「俺はこんな生き方は御免だね」  碇は思いを口にした。  薬に浸り、売り捌き、他者の命を奪う。  そんなことは小説だけで十分に間に合う。  碇はチョコレートの包みを開いた。 「犯人に殺人願望があったのかどうかを訊いたんだ。そうしたら、神の意思に添いましたと真顔で言われたよ。その時感じたんだ。こいつらを救う手立てを俺はなにひとつ知らないんだって。そうすると、とんでもない虚しさに襲われたよ。警察は犯人を捕まえることはできても、その後の手伝いはなにひとつできないんだなって」 「なにもできないと言うのはおかしいですよ。捕まえたあとに話を聞いて、犯人を理解し、更正させる。そのきっかけを与えることができるのは僕らとか監守たちではないかと思ってます」 「あ……上手く行けばな」  碇は、チョコレートを口にした。ほんのりとした甘味が口に広がる。
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