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「相手も人間です。話せばわかりあえると思います」
孝太が生真面目に答えた。
「無駄だよ」
碇はその答えを突っぱねる。
「なにか思い当たることがあるんですか」
「昔、神埼探偵に会ったときの犯人が酷かったんだ。会話にならなくて、死なせてしまったんだよ」
碇は、やりきれなさに言葉を濁す。
新米だった頃の話だ。
窃盗犯がひとり、橋から飛び降りた。説得力のない自分が蘇る。
「その犯人、自殺ですか?」
「止められなかったんだ。あとから調べてみたらそいつには家庭があった。職を無くしたこと言い出せずに置き引きや万引き、あげくのはてに民家に浸入して金を盗んで生活していたんだそうだ。対処法なら役所で訊いてくれる時代に、そいつはなにもせずに苦しんでいた。正直、気が付かない周りが悪いのか、そいつ自身があほなのか俺にもわからなかたけど。今ならなんだか分かるような気がする」
「僕にもその犯人の気持ちはわかりませんね。やり直し方ならいくらでもあるし、破産がそんなに怖いんですかね?」
「周りの目を気にしすぎて信じるものがなにもない人間は損をするんだよ」
碇は、疲れていた。肩も足もタイプする指先も身体全体に疲労が溜まっているのか身体が重たい。
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