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理沙には分かっていたのだろう。
理沙を抱く私が罪悪感に包まれていたのを。きっと酷い顔をしていたに違いない。
幼い頃から、理沙を好きだと自覚し、理沙もまた思いを寄せてくれていた。
が、ある日、習い事から帰る途中、理沙は近所のおじさんにイタズラされた。
いつもなら、迎えに行っていた私は、その日はたまたま遅くなり、理沙の帰り道を辿っていると理沙の悲鳴を聞き、駆けつけた。
破かれた彼女の服と泣き顔、大人の汚い姿
小さい頃から体格の良かった私は、何も考えずに自分のかばんでその変態をひたすら殴り、頭を数針縫う怪我を負わせた。
騒ぎになったが、私が負傷させた事を公にし、理沙の為に両親にだけ真実は伝え、闇に葬った。
が、彼女の受けた傷は大きく、私もまた自分のせいだと責めた。
だからこそ、約束は交わされたのだ。
「もう、恵に愛して貰えないかもって怖かったのよ。汚れた私なんか、見て貰えないかもって。」
「理沙・・・。」
「本当に好きなら、約束なんて抜きにして、ちゃんと私を愛してよ!」
「ごめん、ごめん、理沙。」
ぐっと引き寄せ、抱きしめた。
震える彼女が痛々しい。
ずっと不安にさせていたなんて、知らなかった。彼女は怒っているのだと思っていたから。あの日、約束どおり来なかった私に。
「好きだよ、理沙。他の奴に抱かれる度、相手を殴り倒したいほど嫌だった!」
「・・殴れば、良かったのよ。」
「恋人でいいよね?私。」
「それ以外になりたいの?」
首をぶんぶんと横に振り、嬉しくて頬がゆるんだ。
その表情をみて、ぎゅっと彼女が頬をつねる。
「やっと、笑ってくれた。」
「理沙も、いつもの笑顔だ。」
春の訪れのように、残り雪が溶けていき、眠っていた花が再びさく。
長い冬が、おわった。
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