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辿り着いた場所も、やっぱり真っ白だった。
スケッチブックを左手に持ち、リュックから鉤筆のセットを取り出す。
使い込まれた父の道具。
「……」
まずは八番の筆から。
大まかな線を、一気に解いていく。
父から手順なんか習ってはいない。
少しでも父と一緒に居たくて、幼い頃から勉強していたんだ。
「古い絵だから、ちょっとキツいな」
引っ掛かっていた部分を少し強く動かすと、はらはらと濃い緑色が宙に舞った。
風もない空を少しだけ漂い、ゆっくりとゆっくりと、白い大地へ落ちていく。
真っ白だった惑星に、小さな色が帰ってきた。
「次は、六番」
幾重にも重なった緑色を慎重に解く。
僕が失敗したら、この草原は死んだままだ。
「二番、七番」
使われた鉤筆の微妙な違いを見極めて、鉤筆の種類を決める。
一つ解く度に、草の香りが微かに。
不思議な気分だった。
父の結んだ線を僕が解いている。
何だか、不思議な気分だった。
「……最後は、一番で」
細く繊細な緑色がくるくると空を飛んで、僕の周りを回ってから、草原の最後の白に落ちた。
スケッチブックは真っ白になって、目の前の風景は、鮮やかな緑色になって。
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