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「智和、次に亜希を泣かせたら許さないんだからッ!」 「泣かせてねえしッ!」  プイッと内田から顔を背ける姿に苦笑しながら、翔は紗智をエスコートする。  亜希は紗智と翔の背中を見つめた。 (彼氏か……。)  実際に仲睦まじい二人を目にすると、久保の言っている事が正しいような気になって苦しくなる。  ――彼は「教師」で。  ――自分は「生徒」。  この関係にある限り、紗智のように恋を謳歌する事などできないと、まざまざと思い知る。  それなのに久保の存在が心の内を埋め尽くしていく。  ――あんな風に独占したい。  ――ずっと傍に居たい。  二人の姿が見えなくなっても、亜希は立ち尽くしていた。  ――泣きだしそうな顔。  内田はそれを見ると、急に申し訳なくなって、声を掛ける。 「――なあ、進藤。」  そして、埃をパタパタと払って立ち上がると、眉を八の字にする。 「……さっきは、ごめんな。」  深く頭を下げて、亜希の顔色を伺ってくる。 「……もう、良いよ。気にしてないからさ。」  そう宥めても、内田はがっくりと肩を落としたままだ。 (『気にしてない』って言っているけれど……。)  亜希の一瞬だけ見せた辛そうな表情が、脳裏に染み付いて取れない。  笑って欲しいのに、掛ける言葉も見つからない。  内田はしばらく黙って、それからおもむろに歩き出し始めた。 「……その、服。似合ってる。」 「――はい?」 「スカート丈はともかく、『似合ってる』って言ってんの。」  内田はそう言うと「見んな!」と顔を背けた。  亜希は黙って一歩後ろを歩く。  ――耳が赤い。  亜希はふっと笑みを盛らすと「ありがとね」と返した。  胸が早鐘を打ち始める。  ごくりと生唾を呑む。  誘うなら「今」だろう。  内田はこほんと咳払いをすると、改めて亜希の方をちらりと眺めた。  緊張で手に汗を握る。 「――あのさ。」 「何?」 「一緒に回る奴のあて、あるのか?」 「これから考える。」 「ならさ、一緒に回ろうぜ? 翔は紗智と回るみたいだし。」  しかし、亜希から帰ってきたのは冷ややかな視線だった。
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