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(……やっぱり、止め、止めッ!)  まだ四月上旬なのに、ぱたぱたと手で扇いで、上気した顔を冷ます。  胸がドキドキして心臓が保ちそうにない。 (……久保センは、久保センだったから良かったのかも。)  きっと久保が学生だったなら、大学に進めなかっただろう。  職員室のドアの前でしばらく百面相をしていた亜希だが、何とか心を落ち着けるとドアを開けた。  中では郡山がまだ仕事をしている。 「お疲れさまです。」  そっと中に入ったのに、くるりと体の向きを変えると、郡山は嬉しそうに笑顔を見せた。 「進藤先生、お疲れさまです!」  ニコニコと笑う郡山に亜希も朗らかに笑みを返す。 (郡山先生は平気なんだけどな……。)  軽く会釈して、出勤表へ近付くと、「掃除は終わりましたか?」と訊ねられた。 「ええ、お陰さまで。」  久保と話す時のような動悸はなく、落ち着いて対応出来る。  反対に郡山は落ち着きの無い様子で亜希を見た。 「――あ、あの!」 「はい……。」 「明日か明後日なんですが、空いてますか?」  郡山の頭の中では「鉄は熱い内に打て」と言う諺が頭の中をぐるぐるする。  ――何としても、学校の外で会う切っ掛けが欲しい。  ――久保よりも早く。 「……明日か、明後日ですか?」 「ええ。」  亜希はやや勢いに飲まれながら、「今のところ予定は空いています」と応えた。 「――本当ですかッ?! それなら、ぜひ空けておいてくださいッ!」 「何かあるんですか?」 「そ、それは『お楽しみに』って事で。」 「お楽しみに?」  嬉しそうにする郡山に対して、亜希はしばらく首を傾げていたが、何か思い立つとポンと手を打った。 「あの、それって明日でも良いですか?」 「――へ?」  亜希の方から、そう言われるとドキドキとしてくる。 「もちろんッ!」  しかし、亜希の次の一言で郡山はがっくりと肩を落とした。 「良かった、石松先生にもご挨拶出来そうで。」 「へ……?」  郡山が言い淀むと、亜希は怪訝な顔をする。 「――歓送迎会じゃないんですか?」  覗き込むように見つめられると、何も言えなくなる。  郡山は少しがっくりとしながら「そんなところです」と答えた。 「――みんなにはバレてるのは、秘密にしておきますね。」  そう言って、シィッとジェスチャーをする亜希の可愛らしさに嬉しいような、残念なような心地になる。
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