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亜希と視線がかち合う。
シートベルトをがちゃりと外す。
そして、おもむろに手を伸ばすと亜希を抱き寄せた。
止めなくてはいけないと思っているのに、心が言う事を聞いてくれない。
――あと1センチ。
互いの吐息をすぐ近くに感じる。
引き寄せた彼女は目を思い切りギュッと瞑り、頬を強張らせている。
久保は少し冷静になって、瞼を閉じた亜希から離れると、唇を重ねることは止めて、代わりに頬をすり寄せるに留めた。
「――亜希。」
甘えるように声を掛けると、華奢な肩が僅かに上下する。
腹の奥底の方から喉元まで、一気に熱い感情が膨れ上がってくる。
――苦しい。
胸がパンパンに膨れて、張り裂けてしまいそうだ。
五年前に何重にも鍵をかけていた想いが、溶岩のようにドロリと溢れてくる。
――このまま触れていたい。
――彼女のすべてを手にしたい。
今まで、どうして我慢出来ていたのだろう。
――彼女ガ欲シイ。
何かを考える余地など無い。
衝動に突き動かされて、自然と抱き締める腕に力が入る。
久保の体温が洋服越しに伝わってくる。
息遣いをすぐ傍に感じ、シトラスの甘酸っぱい香りに縛られる。
「……今夜、帰れなくてもいいか?」
耳元で囁かれる声に息も付けない。
「嫌なら、俺から離れてくれ。……これ以上は、自分を止められなくなる。」
甘い呪縛に酔い痴れる。
「もうこの五年で、我慢の緒がボロボロなんだよ。」
ギュッと抱き締められたまま、何も考えられなくなってしまう。
ジリジリと胸の奥が焦げる音がする。
(……嬉しい。)
温かな腕の中に抱かれて、このまま顔を埋めて甘えたい。
(ずっと、こうして欲しかった……。)
何年も前から。
このヒトと居られれば、それだけで構わない。
――他に何も要らない。
(……好き、だよ。)
言葉にならない。
(私、久保センが好き……。)
この体温のように、肌を伝って伝われば良い。
五年前、文化祭の夜にも願ったように。
上手く言葉にならない想いも、全部。
――このヒトのモノになりたい。
(あの日から、ずっと……。)
亜希は文化祭の日を思い起こした。
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