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 ――似付かわしい年頃。  ――亜希をずっと見ていられるポジション。  ――制約のない恋。  きっと二人が付き合っていると聞いても、誰も不自然には思わないだろう。 (何が『彼氏でも作って回って来た方が楽しいんじゃないか』だ……。)  ――そんな気持ち、さらさらないと言うのに。  亜希がきっぱりと「内田とはそんなんじゃないッ」と言った時、心のどこかで安心していた。  ――離れなきゃならないのに。  ――離しがたい。  久保は冷たくなった水を手で受けとめると、大袈裟なくらいに顔を洗う。  ――いっそ、みんな水に流れてしまえば良い。  ――ドロドロとした嫉妬(カンジョウ)も。  ――息の詰まりそうな恋心(カンジョウ)も。  何度か顔を洗うと、ようやく冷静さが戻ってきて、びしょびしょの顔を手で拭うと、ほうとため息を吐く。  窓からの日差しは長い影を生み、廊下に影を落とす。  ――あと半年。  せめてその間だけでも、この恋(オモイ)は秘めなければならない。  でも、今にもその想いは堰を切って溢れてしまいそうで苦悶する。  ――本当の恋。  それがこんなにも理不尽で、こんなにも苦しいものだとは知らなかった。  一方、その頃。  亜希も三階のトイレで同じように鏡を前に睨めっこをしていた。 『模擬店巡りするなら、俺なんかじゃなくて、彼氏でも作って回って来た方が楽しいんじゃないか。』  鏡に映る自分は酷く傷付いた顔をしている。  とてもじゃないが、紗智に真っ直ぐに会いに行く事はできない。 (久保センのバカ……。)  悪態を吐いて、鏡に向かって思い切り膨れっ面をする。 『気になる奴いないのか?』 (……バカ、バカ、バカッ!)  ――あと半年。  大手を振って一緒にいられるのはそれだけなのに。  ほんの少しで良いから、思い出作りに、一緒に文化祭を回れたらと思った。  ――ただ、それだけだったのに。 (全然、分かってないッ!)  相手にしてもらえなかった腹立たしさと悔しさが、フツフツと湧いてくる。  しかし、もう一方で「本当に忙しいのかも」とも思う。 (だったら、本当に仕方ないもん……。)  ――彼は「教師」で、自分は「教え子」。  しかも、たくさんいる教え子の中の一人に過ぎない。 「亜~希ぃ~ッ!」  紗智の声がいよいよすぐ近くまで聞こえてくる。
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