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亜希はため息を一つ吐くと、鏡に向かってニッと口角を上げて笑ってみせた。
「あ、亜希、発見ッ!」
大きな声と共に紗智がひょっこりと顔を出す。
「こんなところに居たんだ。あちこち探しちゃったよ。」
「ごめんね。今、行く。」
――怪しまれないように。
にっこりと笑ってみせると、紗智は気付かなかったようで「外で待っているね」と出ていく。
亜希はその姿を見送ると、もう一度、ほうとため息を吐いた。
「よぉ。」
外に出ると、少し教室の前でウェイター姿の内田が手を上げる。
傍には翔も立っていた。
「――翔くん、また、背伸びた?」
「うん、富士山みたいに、にょきにょき伸びてるよ。」
紗智が翔の代わりに、ジェスチャー付きで教えてくれる。
すると、翔は神妙な顔つきで「富士山か、それは高いな」と呟いた。
「……いやいや、富士山ってどんだけの高さだよ。」
「じゃあ、東京タワー?」
「いや、そう言う問題じゃないし。……ってか、翔の反応もおかしいだろッ!」
「そうか? 俺は紗智の『にょきにょき』の動きが可愛いから、どっちでも良いけど。」
「ダメだ、こいつ……。」
内田が呆れると、紗智は「何よぉ」とぼやきながら、翔の腕に引っ付いて、キュッと抱き付く。
「彼女居ないからって僻まないでよ。」
思わず頭を抱える。
「……こんの、バカップル。」
「ははぁん、さては翔が羨ましいんでしょ。」
「羨ましいわけあるかッ!」
一部始終を見ていた亜希は、思わずくすくすと笑い出した。
「ちょっ……、進藤まで、何、笑ってるんだよ。」
「だって、おかしくって……。」
「亜希も羨ましい?」と笑って訊ねてくる紗智にコクコクと頷く。
「じゃあ、亜希、彼氏を作ろッ! そしたら、ダブルデートにも行けるしさ。」
「えー? 私、モテないからなぁ。」
その答えに内田は「そんな事ない」と言いかけたが、紗智がにやりと笑うから、慌てて言葉を引っ込めた。
「なあに、智和? 顔、真っ赤にして。」
「――何でもないッ!」
「ふーん?」
「何でもないって言ってるだろッ!」
すると、翔が「紗智、智和で遊ばないの」と諭す。
「翔、片桐にもっと言ってやってくれよ。」
「いや、紗智は悪くないよ。」
「は……?」
「からかい甲斐のある智和が悪い。」
「うぉいッ!」
その切り返しに、亜希は堪らず、お腹を抱えた。
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