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「何だよ、みんなして……。」
そうぼやきながらも、ゆらゆらと揺れる亜希のポニーテールに目が行く。
――シュシュで纏めた髪。
――サーモンピンクのサテンの布地で作ったメイド服。
――たくさんのレースに、白いハイソックス。
他のクラスメイトと同じ格好をしているはずなのに、何だか胸の辺りがモゾモゾとする。
「その服って、文化祭の衣装?」
「うん。」
「可愛いよね。3組は喫茶店だっけ?」
「そうだよ。女子はメイド服、男子はウェイター。」
その答えにぐるりと紗智が見て回る。
「可愛い~ッ。細部も凝ってるんだね。これ、亜希が作ったの?」
「うん、買い出しや男子の分はみんなで分担しながらね。」
「凄ーい! いいなー、私もこういうの着たかったぁ。」
亜希と紗智がそんなやり取りをしていても、内田の耳には入ってこない。
紗智はぼんやりとしている内田の肩を叩くと、口を尖らせた。
「ちょっとー、智和も何か言ったら、どうなの?」
「……え?」
「亜希のメイド姿。褒めるとか、褒めるとか、褒めるとか出来ないわけ?」
いつもの内田なら、「それ『褒める』しか選択肢ないだろ」とか言いそうなものなのに、「ああ」と生返事をするだけで反応が鈍い。
亜希は不安になって、「似合わないかな?」と小首を傾げて訊ねた。
――再び、ゆらりとポニーテールが揺れる。
それに釣られるように、心も揺れ始める。
――見上げてくるような視線。
すぐ近くにいるのと、身長差のせいで、自然と上目遣いになる。
久保でさえ「爆弾」と思ったそれは、内田には刺激が強過ぎた。
一気に血が沸騰する。
胸のモゾモゾは、動悸に変わる。
内田は目を思いっきり逸らした。
「……見てられねぇ。」
「え?」
「見てられねぇって言ったの。」
顔を真っ赤にしたまま、そう答えると、間髪入れずに、紗智から回し蹴りを食らう。
「――いったぁッ!!」
内田は、そのままもんどりを打って倒れた。
「……何すんだよッ、片桐ッ!」
「こんのおバカッ! 亜希に謝んなさいッ!」
見上げれば、亜希は酷くしょんぼりとしている。
亜希は久保にもおざなりにしか褒めてもらえなかった事もあり、内田の反応にいつになく傷付いた。
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