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「もう巡察終わったのか」
土方は筆を置き、彼に向きなおった。
「はい!それより聞いて下さいよ」
義靖は当然のように部屋の中に入ると、襖を閉め、畳の上に胡坐をかいた。
「なんだ」
どうせくだらない話だろうと、仏頂面のまま土方は義靖を見る。
「なんと!」
義靖は、今まで後ろ手に隠していた綺麗な紅色の風呂敷を土方の前に置くと、犬っころのような笑みを浮かべて言った。
「呉服屋のお時さんに、福田屋の饅頭頂きました!」
巡察中になにやってんだコイツは。
はぁ…と土方はわざとらしくため息をついた。
「なんでそんな反応薄いんですか?あの福田屋ですよ?薄皮でこしあんの絶品饅頭ですよ!」
必死な様子でそう言うと、義靖は風呂敷を開けた。
中から、つやりと黒光りした柔らそうな饅頭が顔を出した。
「俺は、甘味は好かん」
土方は机に肘をつくと、そう言い放った。
「…とか言って、結局いつも食べるくせに」
義靖は、頬を膨らました。
「・・・」
言い返すのも面倒な土方は黙った。
最後に結局食べることになるのは、
義靖が『食べろ食べろ』と五月蠅いからだ。
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