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「それより、義靖」
「…はい?」
頬を膨らませたまま、不機嫌そうに義靖は土方を見た。
土方は言った。
「思うに、その呉服屋のお時と言う娘は、お前に惚れているんじゃないのか?」
土方の言葉に一瞬きょとんとした義靖は、
「まさか!」
そう言うと、けらけらと義靖は笑った。
何がそんなに可笑しいのか、土方にはわからない。
「ことあるごとに、お前に何かと物をよこすだろうが。その女は」
記憶が正しければ
この前は、串団子、その前は柏餅、その前はおはぎだった。
わざわざ気のない男に対して、京の女はそんなことしないだろう。
「いやー!そんなはずないですよ!僕とお時さんは、甘味大好き仲間ですから」
まだ可笑しそうに義靖は笑っている。
「なんだそりゃ」
義靖の言葉に土方は不服そうに顔をしかめた。
昔からそうだが
義靖はこの手の "色恋" が絡む問題には、
とことん疎い(うとい)のだ。
もし、そのお時に言い寄られたりしたら
コイツは一体どうするつもりなのだろうか
と土方は思った。
たとえ、そのお時がどんなに良い女であっても、
義靖はお時の気持ちには応えることができないだろう。
なぜなら、
義靖は"特別な事情"を抱えていたからだ。
その"特別な事情"を知っている土方は、
義靖のことを案じて、こう言った。
「あまりその女にいい顔するんじゃねぇぞ、勘違いされて言い寄られても、俺は知らねぇからな」
「あぁ、わかった!!」
土方の苦い顔を見て勘違いした義靖は
ポンと右拳で左手のひらを打つと、悪戯っぽく笑って言った。
「もしかして・・・トシさん、ヤキモチですか?」
「はぁ?」
そんなわけあるか。
土方は、眉間に皺をよせた。
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