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「三太さん、いつもこんな時間まで家事してるの?」
「まさか。いつもじゃないよ。今日は特別」
「特別?」
「ちょっといろいろあって、アイロンがけしたら少しは気持ちも落ち着くかなーと思ってやりだしたら楽しくなって止まらなくなった」
前に三太さんから家事の中で何が好きかを聞いたことがある。
三太さんはアイロンがけが一番好きだと答えた。
料理が一番好きだと思ってたからすごく意外だった。
でも、シャツのしわがアイロンでぴしーっときれいになっていく瞬間が好きだと聞いて、ちょっとわかる気がした。
心までぴしっと背筋が伸びて、まっさらになるような、そんな気がするのだ。
三太さんはたまにTシャツにまでぴしーっとアイロンをかけて、まるで店の売り物のように折り目をつけてきれいにたたむことがある。
三太さんにとって、それがストレス発散になるらしい。
だからサクが着ているTシャツがまるでおろしたての新品のようにきれいな折り目がついているのを見ると、あー、三太さん、何かあったんだなーってひそかに思ったりする。
でも、今までその【何か】を聞いたことはなかった。
三太さんがストレスを発散しなければならないようなこと。
そういえば今まで三太さんが不機嫌なところを見たことがない。
サクが三太さんのもじゃもじゃをからかったりすると、ふざけて不機嫌なふりをすることがあったとしても本当に機嫌が悪いところなんて見たことがない。
いつもどこか楽しげに、でも何だか飄々と、つかみどころなく笑ってる。
ストレスなんてどこ吹く風。
そんなの無縁だって顔をしているのだ。
でも、今、三太さんは目の前でサクのTシャツにアイロンをかけ、きれいな折り目をつけている。
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