アイロン

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ぼんやりしていると、三太さんに「喉乾いてるなら、冷蔵庫に麦茶あるよ」と言われた。 「あ・・・うん」 そうだ。 あたし、喉が渇いてたんだった。 キッチンへ行き、冷蔵庫を開ける。 ナポリタンの残りはなかったけど、出汁巻きの残りが4切れあった。 お皿の上に行儀良く並んで、ラップがかけられている。 出汁巻きはサクの好物だ。 いつもなら三太さんがさすがに今日は作りすぎたかもと思っていても、朔が全部食べちゃうから残ることなんてないのに。 「出汁巻きが残ってるなんてめずらしいね」 冷蔵庫から麦茶を出し、コップに注ぐ。 「あー、うん。ちょっと卵がいっぱいあったから張り切って作り過ぎちゃったんだ。さすがの朔も花のナポリタンまで食べたから出汁巻き全部食べ切れなかったみたい」 「サクでも食べれないときがあるんだねー」 「花、おなか減ってるなら食べていいよ」 「ううん。いい。夜中に食べると太るって言うし、今はやめとく」 「花はもうちょっと太った方がいいと思うけどなー」 「でも、今日サクにおんぶしてもらったとき、重いって言われた」 「女の子に重いなんて朔はデリカシーがないなー」 「でしょー? ひどいと思わない?」 「でも、朔はその分、誰よりも優しいだろ?」 「・・・うん」 サクは優しい。 誰よりも。 ごくごくと喉を鳴らすように麦茶を飲むと、カラカラだった体のすみずみにまで行き渡るように潤った。 「はー。生き返ったー」 「そりゃ良かったなー」 そう言って笑ったあと、三太さんは急に黙り込むと真剣な面持ちで次のTシャツにもアイロンをかけていた。
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