アイロン

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リビングのソファに戻り、 2杯目の麦茶をゆっくり飲みながら何となく、「三太さん、何かあった?」と聞いてみた。 「どうして?」 「前に言ってたでしょ? Tシャツにアイロンがけしてきれいな折り目をつけてたたむのはストレス発散になる、って」 「あー、そういえばそんなこと言ったことあったねー」と三太さんは笑う。 「今それをしてるってことは、何かストレスがたまるような嫌なことでもあった?」 「嫌なことっていうか・・・実は俺の愛車がエンジンから煙出しちゃって」 思いがけない話にあたしは「えっ?!」と声を上げる。 「当分入院だってさ。入院どころか退院できるかもわかんないって言われちゃった」 「三太さん、大事に乗ってたのにね」 いくらあの車がオンボロでも、三太さんが大事に乗っているうちは絶対に壊れないと思ってた。 「ま、そろそろヤバイなとは思ってたんだけど、こんな突然ダメになるとは思わなくて、正直動揺してる」 「それで大好きなアイロンがけ?」 「そ。アイロンかけると自分の気持ちもぴしーっとなる気がするから。さすがに起きてしまったことはもうどうしようもないし。俺がくよくよしたところでどうなるもんでもないしね。とりあえず前向きに、気長に待ってみようと思うんだー」 三太さんはサクのTシャツをきれいに折り目をつけて畳むと「はい、一丁上がり」と満足そうにあたしに見せてくれた。 それはまるで新品の売り物のようにきれいに畳まれていた。
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