アイロン

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「またさみしくなった?」 三太さんがあたしの気持ちを読み取るように尋ねる。 あたしは素直に「うん」と答える。 「知りたい?」 「知りたい」 「教えない」 「どうして?」 「だって、朔は俺に教えてくれたんだもん。でも、花には言わなかった。それなのにそれを俺が花に教えるのは道理に合わないでしょ?」 「三太さんには言えて、あたしには言えないことなの?」 「誰にだって言いたくないことのひとつやふたつあるさ。花にだってあるだろ?」 「あたしは・・・」 「ない」って言いたかったけど言えなかった。 ふと、バスを見送って手を振る星野さんの姿が脳裏に浮かんだからだ。 あの嬉しいとかドキドキは涼ちゃんには言いたいけど、でも、サクには、もちろん三太さんにも美月さんにも言えない気がした。 「あたしも・・・ある」 「でしょ? だから、今は言いたくなくても、いつかさ、サクが花に言いたくなったときに黙って聞いてあげればいいんじゃないかな?」 「三太さんにも、ある?」 「誰にも言いたくないこと? そりゃーあるよ。言いたくないことのふとつやふたつ。いや、もっとあるかもなー」 「どんなこと?」 「えーっとね・・・って、言いたくないことなんだから言えるわけないじゃん」 「じゃあ、三太さんも言いたくなったら教えてくれる?」 「もちろん。いつか、言いたくなったらね」 「うん。わかった。じゃあ、それまで待ってるね」 三太さんは「よくできました」の代わりに、あたしの頭をわしゃわしゃわしゃーっとかき混ぜるように撫でてくれた。
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