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小さい頃、三日月に座れると思ってた。
絵本の主人公みたいに三日月のとがった先に座って足をぷらぷらさせるの。
「そんなのできるわけないでしょ」
「どうして?」
「三日月は、本当はまぁるいんだよ」
「まぁるい?」
「そうだよ。月はいつだってまんまるなんだ。そのまんまるの月が太陽の光に照らされたところがその日の月の形を作ってるんだよ」
太陽に照らされているところだけがすべてじゃない。
「つまり、目に見えているものだけがすべてじゃないってこと」
あのときのサクの横顔を今でも覚えてる。
サクもいつかかぐや姫のように月に帰ってしまうんじゃないかと思ったら、急にさみしくなってサクと手を繋いだ。
すごく強く握りしめたはずなのに、サクは振り向き、「この前、教えてもらったんだ」と言ってにっこり笑った。
さっきまでのかぐや姫がウソのように笑ったの。
あのとき、サクも三日月だったんだと思う。
あたしはまんまるのサクを見てなかったんだ。
今日は新月。
今はもう三日月さえ見えない朔の夜。
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