小さな手

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三太さんの言う通り、お風呂に入ったあと、ベッドにもぐるとあっという間に眠れた。 そして、いつもの夢を見ることができた。 夢の中はやっぱり雨だったけど、どこかほっとした。 キイロの泣き声がしなかったからもしれない。 でも、森の中には確かにキイロの気配を感じた。 ふと、隣にも気配を感じ、振り向くとサクがいた。 「サク?」 名前を呼んでもサクは振り返らなかった。 森の方へ向けられた視線はあの三角の目だった。 睨むように、ただまっすぐ前を見ていた。 そして背中からはピリピリと電気が流れてた。 まるで今日のデジャヴだ。 いつからここにいたんだろう? サクは雨に濡れて、髪も服もびしょびしょだった。 思わず、サクの手に触れようとして止める。 夢の中でも約束は約束だ。 手を繋ぐ代わりにTシャツの裾を引っ張る。 「サク?」 するとサクがしゅるしゅるとしぼむように小さくなった。 まだ手を繋いで歩いていた小学生の頃のサクだ。 そこにはもう三角の目もピリピリもなかった。 ただ、悲しそうに森の奥を見ていた。 雨の雫が頬を伝う。 まるでポロポロと泣いているようだった。 あたしはTシャツの裾から手を離し、サクの手をそっと握る。 だって、この頃のあたしたちはまだあの約束をしていない。 いつもこうして手を繋いでいたんだから。 サクはあたしの手を振り払うことはなかった。 今より少し小さい左手はとても冷たかったけど、こっちを向いて、ほんの少しだけ笑ってくれた。 嬉しくなって、にっこり笑い返すと、サクはまたしゅるるるとひと回り小さくなった。 あぁ、これはあたしが忘れてしまった、あたしの知らない小さな小さなサクだ。 たぶん、小学校に入ったばかりの頃のサクだ。 手も本当に小さくてかわいい。 あたしの手にすっぽりと収まってしまう。 でも、何より驚いたのはサクが黒いワンピースを着ていたことだ。
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