ラブレター

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天気予報は今日もウソをつく。 午後から雨だと言っていたくせに、湿気を帯びた空気がまとわりつくばかりで雨はいっこうに降る気配がなかった。 前の席の女子がこの暑さに負けて下敷きでパタパタと扇ぐたび、柔軟剤だか香水だかわからないやけに甘い香りが鼻についた。 何故だかぐったりしてしまうのはこの天気のせいだろうか、それともこの匂いのせいだろうか。 期末テストも終わってあとは夏休みが来るのを待つばかりだった。 授業なんてひとつも頭に入ってこなかった。 それは峯田も同じらしく、後ろの席からは気持ち良さそうな寝息が聞こえている。 ふと窓の外を見ると、授業中だというのに向かいの校舎の屋上に人影が見えた。 逆光だったので顔はわからなかったけれど、何故か目が合った気がした。 レーザービームで打ち抜くような、強い視線。 誰だ? 目を細めて見ても誰だかわからない。 「真城ー、よそ見するなー」と言われて教壇へと視線を移す。 先生が黒板の方へと向き直るのと同時に、もう一度向かいの屋上へと視線を向ける。 でも、そこにはもう誰もいなかった。
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