ラブレター

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玄関に着き、下駄箱を開けると1通の封筒が入っていた。 淡いクリーム色の封筒だった。 一瞬、手が止まる。 「朔、どうかした?」 涼子は「もしかしてまたラブレターもらったの?」とひやかしながら下駄箱を覗き込んだ。 「うわ。ホントに入ってるし」 ラブレターをもらうのはこれが初めてではない。 小学校のときも、中学のときも、そして今も、年に何通かこうして下駄箱に入っていることもあれば、直接もらったりすることもあった。 涼子は「ったく、これのどこがいいのかしらねぇ」と値踏みするかのようにまじまじと俺の顔を見た。 「やっぱ一般論で言うと顔じゃねーの?」と冗談で返すと、涼子は「自分で言ってりゃ世話ないわ」と吐き捨てるように言った。 涼子だって黙ってりゃそこそこモテそうなのに、といつも思う。 「で、誰からだったの?」 封筒に差出人の名前はなかった。 「気になる?」 今度はこっちが主導権を握る番だと思ったのに、涼子は「別に。社交辞令で聞いてあげただけ。じゃあね」と言い、さっさと靴を履き替えて行ってしまった。 封筒にはキラキラ光る金色の星のシールが貼ってあった。 そのシールを外し、便箋を取り出す。 そこには【いつも見てます。頑張ってください】と書かれているだけで差出人の名前はここにも書かれてなかった。 その代わりにと言っては何だが、お世辞にも上手いとは言えない、たぶんネコと思われる絵が描いてあった。 好きとか、付き合ってくださいとか書いていないからラブレターではないらしい。 でも、いったい何を頑張れっていうんだ? それにしても、いつも見てるって、なんだか不気味だ。 ストーカーか? そういえば授業中の屋上からのあの視線はもしかして?などと、ぼんやり考えたものの、そのときはあまり深く考えずにその手紙をポケットにしまった。
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