第1章

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十分後。 部屋の中に、サンタとトナカイの姿があった。 いや、トナカイかよ。 サンタじゃねぇのかよ。 ソリ引く側かよ。 つうか、人間じゃねぇよ。 「先輩…………怒ってるの?」 トナカイの帽子を被っている俺の顔を、柚木が腰を屈めて覗き込んで来る。 しゅんと元気をなくしているサンタに、俺は不貞腐れはしても怒りはしていなかった。 「…………怒ってない。猛烈に恥ずかしいだけ」 だって。 トナカイの着ぐるみなんて。 俺の全身が茶色いトナカイに包まれてるんだぞ? ここまで本格的な着ぐるみを着るなんて。 どっちかっていうと、サンタの方がマシですよね? ね? 「先輩………………可愛いね」 「ーーーー」 後ろからぎゅっと抱き着かれ、俺は更に顔を真っ赤にしながら柚木を振り払おうともがいた。 「ちょっ……、くっつくな!ただでさえ安定感ないんだからな?そんなにくっつかれると、こけっ……」 言い終わらない中、俺の体がぐらりと傾いてしまう。 けれどすぐさま柚木が抱きかかえてくれたので、何とかゴロンと床に転がることはなかった。 ただ、柚木の腕の中に、おさまってしまっている。 「………………」 ……………… ん? これって。 なんか。 変な雰囲気に、なってませんよね? どこからか幻聴で、なってます、なんて声が聞こえたような気がした。 なんて恐ろしい。
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