368人が本棚に入れています
本棚に追加
「今後一切、コスプレ禁止」
「そんなぁ……」
風呂にも入りスッキリした俺は、布団の上で胡座をかきながら柚木を見下ろす。
布団の前で正座している柚木はというと、ションボリと耳を垂れた犬のように、泣きそうな顔で俺を見上げていた。
「トナカイの先輩……可愛かったのに」
「もう。絶対。しない」
ハッキリきっぱりと言う俺に、柚木は諦めたのか視線を落として大きく溜息を吐いた。
あのな、柚木。
溜息吐きたいのはこっちだっての。
トナカイの着ぐるみ着ながらイっちゃった俺が、どんなに恥ずかしかったか分かるか?
図らずしも友達一号の希望通りなカップルになってしまったんだと思うと、
恥ずかしさで今すぐにでも絶叫しながら転げ回りたかった。
けれどそこは、とりあえず理性で何とか我慢するとして。
「先輩」
「っ何だよ!俺はいま、怒ってーーーー」
振り返った目の前に、赤い包装紙で包まれた箱がある。
「プレゼント。貰ってね、小太郎?」
ふわり、と優し気な笑顔を浮かべながら言う柚木に。
恥ずかしながら。
俺の怒りは、一瞬でどこかへ飛んで行く。
単純だな、とか。
こりゃまた、結局いつか、こいつにコスプレさせられる日が来るかな、なんて。
そんな風に思うけれど、もう、仕方ない。
だって。
やっぱり、こんなに好きなんだもん。
好きな相手に甘いのは、きっと俺だけじゃないはずだ。
「あ……りがとう」
自然と溢れる笑顔で受け取ると、柚木は更に嬉しそうに微笑む。
一番のプレゼントはきっと。
お前の笑顔だよ、なんて。
それこそ恥ずかしいから、言ってやらないけどね。
< 完 >
最初のコメントを投稿しよう!