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「よく覚えてるな。そうだね、俺怒られてたわ」
喉の奥でくぐもるように笑っていたら。杏もつられたようにケラケラと笑い始めた。
そんなに昔の話ではないのに、すごく懐かしいと感じる。それだけ、杏と出会ってからの日々が充実していた証拠だろう。
鞍馬は杏に向き合って両手を握りしめ、まるで御姫様にするかのように、その手に軽くキスをした。
杏はパッと花のような笑顔を見せて「おとぎ話みたい」と頬を染めた。
「杏ちゃん、俺のお願い、聞いて欲しいんだ」
杏は笑顔のまま勢いよく顔を縦に振った。
「杏ちゃんはね、誰とでも仲良くなれる子なんだよ。今まではちょっと難しかったかもしれないけど、これからは違う。寂しそうな顔をしなくていいし、学校にきて馬鹿にされる事もない。俺はそれが嬉しい」
「義人が一緒にいてくれれば、それで僕はいいよ?」
「うん、その言葉が聞けて俺はすごく嬉しいよ。でもね、それじゃ駄目なんだよ。俺だけで人間関係が…お友達がいないのは駄目なんだ。これからいっぱいお友達をつくって、ずっと笑顔でいて欲しい。俺は、杏ちゃんが俺だけを見て、俺だけでいいって言うのは嬉しいけど、悲しい。杏ちゃんはいっぱい、色んな事をして、色んな物を見て、それで良い大人になって欲しいんだ。だから、俺だけ、なんて言わないで?」
「それが、義人のお願い?」
「うん。これが俺のお願い。あとね、もうちょっとお話がある。俺は、いつまでも、ずっと…杏ちゃんの味方だよ。何があってもね。絶対に、それは変わらない。どんなに離れていても、会えなくても、俺は絶対に杏ちゃんの事を忘れないし、どこにいても杏ちゃんを思っているよ」
杏は首をコテンと傾けて「…うん?」と眉間に皺を寄せた。鞍馬は笑顔のままその皺を指でほぐしてやる。杏はくすぐったかったのか、笑いながら鞍馬の指から逃げた。
鞍馬は杏をぐいと胸元に引き寄せ、すっぽりと覆うように抱きしめた。
「忘れないでね、俺の事。絶対に。何があっても、俺は杏ちゃんのとこに行くから。どれだけ時間が立っても、俺は絶対に…!!」
我慢しようと思っても我慢できるものではなく、鞍馬の語尾はみっともなくも震えていた。杏を抱きしめる両手に力が入る。
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