第1章

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「ぼくの側からいなくなったりしないよ。義人は絶対に側にいてくれるんだよ。だって約束したもの。ずっと一緒にいるって。昨日だって…!」 「昨日、何も言われなかったの?」 「昨日…」  回らない頭で、昨日の事を懸命に思い出そうとする。思い出してはいけないと頭の中で警告音が鳴り響く。それでも、義人が自分に嘘などつくはずがないから…。  キン、と頭に痛みが走る。 『どんなに離れていても、会えなくても、俺は絶対に杏ちゃんのことを忘れないし、どこにいても杏ちゃんの事を思っているよ』 「杏ちゃん?」 「ぼく、なにか嫌われるようなこと、したのかな?なんか、変なことしちゃった、のかな?わがまま、言った?でも昨日、義人怒ったりしてなかったよ?泣いてたけど、ぼく、ちゃんと痛いのもらった。ぼくに痛いの痛いの飛んでけして、痛いの治した!!」  八幡を掴む手に、力が籠る。見上げて、訴えるように声を張り上げる。 「泣いてて、でも、大好きって、それで抱きし…」 「杏ちゃん!」  八幡は先を言わせまいと、杏の口元を押さえた。杏は大きな目を溢れんばかりに見開いて、怯えるように八幡を見つめる。焦点が合わない、そう八幡が思った瞬間、杏は八幡の手を振りほどいた。  あまりの勢いに、八幡の体が大きく揺れる。 「わからない、わからない」と呪文のように繰り返しながら、杏は自分の両手で頭を叩き始める。八幡がそれを止めようと、腕を押さえつけても普段の杏とは思えない程の力強さで逃れようと抵抗する。力任せに腕を引っ掻かれて、腕にチリついた痛みが走ったが、八幡を腕を離さなかった。  教室内は静まりかえり、誰も何も声も出さず、異質な物を見る目で杏を眺め、怯えて傍観しているだけだ。  鞍馬がいつも軽蔑した目でクラスメイトを見ていた理由が、八幡にもようやくわかった。自分以外誰一人として、杏を宥めようとはしない、この姿勢を鞍馬は軽蔑していたのだろう。 「杏ちゃん、お願いだから、落ち着いて。ね?ちゃんと説明してあげるから…っ!」 「わからないわからないわからない……」  虚ろな視線が一点に集中したと思ったら、杏の体から力が瞬間で抜けた。危うく倒れ込みそうになり、八幡が慌てて支えると、杏はそのまま糸の切れた操り人形のように気を失った。 「先生、杏ちゃんを保健室まで運びます。あと、家に連絡してもらってもいいですか…」
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