第1章

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 足下に置いてあった紙袋から取り出した物は、少し大きめのくまのぬいぐるみだった。母親はそれを杏の枕元にのせて左右に揺らしてみせる。くまの両手に握りしめられているのは大きめの封筒。 「くまさん?」 「そう。くまさん。これね、義人くんが杏に渡してくれって。自分がいなくなったら杏はとっても悲しむだろうし、寂しがるだろうから、これを義人くんの変わりだと思ってくれって。自分が大人になって、また杏と会える時まで、大事にしてねって。義人くん、本当に杏の事が大好きなのね…。お母さんが妬けちゃうくらい、義人くんの気持ちが伝わってきたわ」  杏が封筒を指の先で弄っていると、開けてみたら?とすすめられた。  杏はベットから起き上がり、くまを胸に抱えて手紙を広げる。手紙は杏でも見え易いように大きめの字と、そしてひらがなで書かれていた。    あんずちゃんへ  このてがみをみているなら、きっとおれはそばにいないとおもう。いきなりいなくなってごめんね、あんずちゃん。ほんとうは、ちゃんといいたかったんだけど、おれもつらくて、いたくて、いえなかった。  おれも、あんずちゃんと、ずっといっしょにいたかったよ。でも、おれはまだこどもで、なにもできないんだ。だから、あんずちゃんとずっといっしょにいられるように、かっこいいおとなになってきます。  あんずちゃんはきっとないちゃったとおもう。おれのいないときになかせたくなかった。ほんとうに、ごめんね。  あんずちゃん、さよならじゃないよ。おれは、あんずちゃんにさよならしないよ。ずっといっしょにいるって、やくそくしたよね?  だから、おれがおとなになって、あんずちゃんをむかえにいけるときまで、どうかおれのことをわすれないでね。すきでいてくれ、なんていわないよ。あんずちゃんがしあわせなら、ほかのだれかとしあわせになってもいいとおもってる。  けど、やっぱりおれのそばにいてほしいから、おれがおとなになって、あんずちゃんがだれかとしあわせだったら…。おれのほうがしあわせにできるよっていっぱいあんずちゃんにいいます。それで、またあんずちゃんにすきになってもらえるように、がんばります。    あんずちゃんにはいろんなきもちと、いろんなものをもらいました。おれは、あんずちゃんになにかしてあげれたかな?
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