第1章

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「でも、つらいよ。義人いないと、寂しいよ、悲しいよ…!」  我慢していたものが濁流のように押し寄せる。側に居て欲しい。片時も離れて欲しくなんかない。 「杏、悲しんでいいのよ。寂しがっていいの。でもずっとはだめ。我慢して、それで義人くんを笑顔で待ちなさい。それが大人になるってことよ杏。義人くんが離れたかったと思う?こんなに杏のことを思って、色々してくれてるのに。杏と離れるのが不安で不安で仕方がなかったんだと思うわ。自分は側にいる事ができないから、できる限りの事をしていなくなりたいって、言ってたもの。杏だけが悲しいの?義人くんは悲しくなかったと思う?大人になった義人くんが来てくれた時に、杏だけ子供のままでいいの?」  思い出す。義人は泣いていた。なんで泣いているかわからなかったから、どこか痛いんだと思っていた。胸が痛いって言ってた。それは、同じ。自分と同じ。  胸が痛い。締め付けられるように、痛い。涙が止まらなくて苦しくて、義人が側にいないんだという実感が杏の体を駆け巡る。 「ぼくも、大人に、なりたい。義人に嫌われないように、大人に…」  側で黙っていた祐介は、ゆっくりと杏の横に腰を降ろすと、止めどなく流れだす杏の涙を指先で拭った。 「杏、急いで大人にならなくてもいいと思うよ。俺も、杏もまだまだ子供だよ。でも、きっとゆっくり大人になるんだと思う。あいつに嫌われないように、じゃない。今の杏をなくさないように、大人になればいいんだよ」 「今のぼく…?」 「そう。ちょっと杏には難しいか。杏の良い所をずっと無くさないようにすれば自然と大人になれるよ。これから先、きっといっぱいつらい思いをしなくちゃいけないんだと思う。それをクリアしていけば、きっと大人になれるんじゃないかな。だから、今の辛い事を頑張って乗り越えようぜ。な?杏が笑顔じゃなかったら、あいつも悲しいと思うし。あいつ、俺のとこにも来たんだよ。なんて言ったと思う?杏を大事にしてくれてありがとう、だってよ。お前のもんかよっ、俺が大事にしてたんだって思ってむかついたけど、あんまりにも真剣だったから……何も言えなかったけど。もしも、これで大人になっても杏のとこに来なかったら、俺が絶対捜しだしてぶん殴ってやるから! だから今は頑張ろう。杏のペースでゆっくりさ」
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