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孫が見たいと言い出した妻の両親の願いを、叶えるが為の行為は
どちらともに寒気がするほど退屈なものだった。
それでも、女性である彼女からすれば少なからず自身の子供を抱きたいと思う気持ちもあったはず‥
けれど、繰り返す行為の答えは出ないまま、いつしか諦めへと移行した思いを気付いていながら、何処かホッとした気持ちになったのは嘘では無い。
35を過ぎた頃から、もう言葉を交わすことも殆ど無くなって、
けれどプレゼントをすればお互いが笑顔でそれを喜べた。
そうやって、いつの間にか遣り過ごすだけの関係を一定の距離を保ったままただ、だらだらと続けては来てしまった。
「役所に出すから、早く書いて?」
何の躊躇いも見せない彼女の瞳は、俺への失望が蠢いて‥
この、長い日々は何だったのかと思わせるほど呆気ない終わりに、
引き止める言葉を探しても見つけようの無い俺は、まだ脱いでもいなかったスーツの内ポケットから普段から使い慣れたボールペンを取りだした。
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