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狭霧は、今夜は任務で遠くに行っている梨花の叔父から預かっていた鍵を使って、三神の家の中に入った。それに梨花がつづいたところで、狭霧はゆっくりと手を放す。
「鍵、置いておきますね、梨花。一人で……大丈夫ですか?」
下駄箱の上に鍵を置いてから、狭霧は梨花が深くうつむいたことに気づいて心配になった。
奥から玄関まで漂ってくる、線香のにおい。ずっと意識不明だった梨花の帰りを待たず火葬されてしまった父親の骨が、奥の部屋にあるのだ。
「梨花……」
気遣うように名前を呼べば、彼女ははじめて、言葉を発した。
「なんでも、ない……大丈夫」
ひどくかすれた小さな声に説得力はなく、無理に笑おうとしている唇とは対称に、瞳はいまにも泣きそうに潤んでいる。その悲しい微笑が、どうしようもなく狭霧の心を抉った。
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