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「梨花」
「大丈夫。送ってくれて、ありがと……」
いい終わらないうちに、その瞳から涙がこぼれた。
どうしていいかわからず立ち尽くした狭霧に、梨花は縋るように手を伸ばした。拒むこともできないまま、狭霧は梨花を受け止める。
大丈夫なはずがなかった。
たった一度の戦いで、彼女は独りになってしまったのだ。この家に、独りきり。娘として、妹として、父にも兄にも愛されてきたはずの彼女が突然、彼らとの思い出のつまった家に独りだけになった。それは、とても残酷なことだ。
「ごめん狭霧……ほんとは、大丈夫なんかじゃ、ないっ……」
彼女は目覚めてから一度も泣かなかったと、狭霧は麻雄から聞いていた。父親の遺体が火葬されてしまったことや、敏秋がまだ見つかっていないことを伝えても。
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