帰郷

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 読み返す手紙は、明るくて、面白くて、楽しくて。まゆらは敏秋が生きていた頃、彼からの手紙を心待ちにしていた。気づけば、拠り所にしていた。  そんなことを、喪(うしな)ってから気づかされた。  肌寒い部屋の中で灯りもつけずに、まゆらは彼からの手紙をすべて掻き抱いた。  今夜、敏秋の妹と二村の嫡男が帰郷する。そうまゆらは聞いていた。妹と友人を逃がすために、敏秋が自ら命を絶ったのだとも、聞いた。その二人が帰郷するというのに、敏秋は遺体さえ見つからない。帰ってこない。別れさえ、いわせてくれない。 「敏秋……」  切ない声が、唇から漏れた。  まゆらは、その類稀な霊力と神降ろしの才を買われて、この中国支部長の家に養子として招かれた。
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