帰郷

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 けれど去年になって、この家に本当の子供ができた。その子が奥方の胎に宿ったと知ったときから、まゆらは神託を降ろせなくなった。心の乱れを見透かされたように、神の声が聞けなくなったのだ。裏でそれを嘲笑う者も、何人かいる。  伊勢にも神の声を聞く少女がいて、これまでは同等だった。だが神託はもはや、あちらにしか降りなくなった。伊勢の巫女は、先だってこの土地の危機を、この土地に住むまゆらより先に察知して警告を出してきた。まゆらの面目は丸つぶれだ。  巫女としても、この家の子供としても、まゆらには存在意義がなくなってしまった。 『神様の声なんて、聞こえないのが普通っすよ』  先程まで目を通していた、握り締めた手紙にしわが寄った。 『聞くべきは神の声でも他人の悪口でもなく、自分自身の心の声。俺はそう思います。俺なんかは俺の本心、本音に従って突っ込むだけ。麻雄には単純馬鹿っていわれましたけど、猪突猛進のほうがわかりやすいでしょ?』
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