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力ない拒絶の声に、麻里は立ち止まる。あと一メートルもないのに、その距離が遠い。
「どうして?」
「弱っている姿を、おまえに見られたくない……」
ぼそりと白状された声に、麻里は小さく息を呑んだ。
麻雄は、すべてを一人で抱え込みすぎている。
麻里と麻雄は、本当の兄妹のように育てられたが義兄妹だった。麻雄は十五歳のうちに、麻里が養女である事実を知った。その彼女を愛してしまったことで、彼は一人で苦しんだ。
なにも知らない麻里を傷つけないように、義兄妹である事実も、彼自身が麻里に抱いた気持ちも封じて、たった一人で抱えつづけた。
打ち明ければ、こんなにも簡単なことだったのに。
麻里は麻雄を避けて、ベッドの上にあがった。そして座っている彼の背中に自分のそれをくっつけて、座る。
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