帰郷

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「梨花……」  麻雄は、眠りつづける梨花の額に触れた。あたたかくも、冷たくもない。  彼女は樹海での戦いで内臓が傷つき軽い胃潰瘍になった。だが身体を休めることもせずそれを放置して、兄の遺体を捜しに樹海へ取って返した。そして三日も不眠不休で彼を捜し歩き、ついに倒れたのだ。  胃に穴が空く寸前まで、症状が悪化していたのだ。  その日から一週間が経ち、それもほとんど治りはじめている。彼女は生まれが特殊な鬼子という存在であるために、肉体的な損傷の修復機能、自然治癒力は常人に勝る。医者も驚くほどの早さで、梨花の容態は回復した。  けれど、一向に目を覚まさない。まるで彼女自身が、目覚めることを拒絶しているようだった。  夕日のオレンジ色が差し込む部屋の中、麻雄は梨花から手を離した。  目覚めても、彼女にとってつらい現実しか待っていないのはわかっている。わかっていながら、麻雄は彼女の回復を願った。
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