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麻雄になだめられた麻里が彼から離れても、梨花はしばらく狭霧から離れなかった。彼女の境遇を思えば無理もないだろう。
独りぼっちになってしまった彼女は、誰かの手を放したくないようだ。山梨からずっと麻雄にくっついてきたという。突き放すのも可哀想なので好きにさせていたと麻雄は告げて、あとのことを狭霧に託した。
狭霧は梨花に帰りましょうと声をかけて、いまは三神の家までの道を、彼は梨花の手を引いて歩いている。
家に近づくにつれて梨花の足が重くなる。それに気づきながらも、狭霧は足を進めた。かける言葉も見つからず無言で、ただ手だけを放さないように。
こんなに長い時間異性と手を繋ぐのは、狭霧にとってはじめてのことだった。梨花の手は、刀を使う人らしく鍛えられていて、けれどやわらかい、女性の手だった。血色の優れない彼女の顔は夜闇の中で白く浮いて見えて、繋いだ手から伝わる体温も低い。それでも、生きている。
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