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施設side - 希望と現実
「僕に触るなっ!」
初老の男が少年に触れた瞬間、少年が手を振り払う。
「ああ……すまないね。忘れていたよ」
そう言い返すが、今度は左手で少年の手を掴んだ。
「やめろ! お前に触られると頭が痛む」
少年は再度手を払った。すると男は、口をへの字に曲げてこう返す。
「まだ能力は出ていないみたいだね。来週で15……これじゃ遅い」
彼は実験をしている。任意の変調を発症させる実験。そして少年はその被験者。
病院で他人の心を読める女性の細胞を変異させ、身寄りのない、まだ赤ん坊だった彼に移植した。
実験が成功するか否かはわからないが……数々の実験を行った中で生き残ったのはたった3名。
他は移植した時点で死んでしまった。
心を読む能力を移植された彼と、骨を硬質化させる変異を移植された少年……体温調節を自分の意思で可能にする変異を移植された少女。
彼らが男の希望だった。
同じ細胞を移植しても生き残ったのは彼らのみ。適合不適合があるのか、変調が発症されるか否かはまだわからない。
だが、任意の変調を持たせられる可能性があるのは事実。自然の摂理では変調を消せないにしても、付加することはできるかもしれない。
男は自分の変調を呪うと共に、彼らを温かく見守り、変調を待ち望んだ。
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