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「……あの」
相手が年上なのかも年下なのかもわからない。敬語が無難だろう。
声は若い。少年であることは確か。
……返事はない。うめき声は続いてるから、聞こえてない?
仕方なく身を動かして、声へと近づく。
やっぱりというかなんというか、ここは鉄格子で仕切られた個室らしい。
頑丈そうな石壁、もしくはコンクリートの壁が三面。唯一部屋の外が見えるのは鉄格子の面だけ。
この格子も腕が一本入り込む程度で、天井から床まで真っ直ぐ延びていた。
壁にはもちろんだが、格子にも扉がない。普通の牢屋とかなら、鍵付きの格子扉がありそうなんだけど。
「……あの、聞こえます?」
もう一度呼び掛ける。証明が部屋の外……廊下部にあたるところの天井にぶら下がっている小さな吊るし照明だけだから、周りが見えない。
ようやくうめき声が止まった。相手の静かな呼吸音と、遠くでしたたる水滴の音だけしか聞こえない。
驚くほど静かだ。もしかすると、ここには俺とそいつしか居ないのかもしれない。
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