施設side - 希望と現実

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ここに来る前から、薄々怪しいと感じていた。 時間は約一ヶ月半前に遡る。俺が長い時間眠っていなければの話だが。 ーー亜矢子から解放され、警察からの事情聴取を受けていた。 両親、弟も『心配だ』と言って一緒についてきたが、真意は定かではない。あの時は気に留めなかったが、今は不思議に思える。 よくある刑事ドラマのような、無機質な個室ではなく、事務室で聴取は行われた。 これが火災事件(仮称)の担当『鈴羽銀一(すずはねぎんいち)』のやり方らしい。 部屋の壁際にびっしりと置かれている書類、均等に並べられた仕事机。 机にはパソコンや大きなファイルが置かれているところが多い。鈴羽さん曰く、データの量は仕事効率に比例する、汚ければ汚いほど仕事が速くなる……とのこと。 わからなくもないがそうじゃないだろう、と思った。 彼は白髪混じりの黒髪に、これまた白髪混じりの髭を鼻の下に伸ばしている。眉も、これまた白髪混じりで、眉を潜めれば身が凍るような風格をしている。 歳は50代くらいといったところか。脚が悪いようで、車椅子に腰かけていた。 「君はあの監査施設で何をしていたのかな?」 机にノートを広げ、体だけをこちらに向けた状態で真剣な表情で質問をされる。 この質問がどう繋がるのかわからないが……問題点の入り口の入り口、といったところだろう。
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