施設side - 希望と現実

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答えるのに時間がかかってしまっては怪しまれる。 「一日目は普通に過ごしていました。でもその時ーー」 亜矢子に脅されたことと、罠によって施設からの脱出が不可能だったこと……それを証明した浜の死を話した。 鈴羽さんは時折相づちを打ちながら、ノートに文章を書き連ねる。 次の話に移ろうとしたところで、鈴羽さんに止められた。 「そこまででいい。……知らない名前が何名か出てきたが……、フルネームはわかるかね?」 恐らく浜、才羅のことだろう。まだ灘村と北村の話は出ていないから、この二人だけだと思う。 「浜 英之(はまひでゆき)と才羅 灰(さいらかい)です。才羅も……死にました」 しかし鈴羽さんはこちらを見つめたまま動じない。漢字も教えた方がいいのだろうか? 確かに、調査するのなら……漢字も必要になるだろう。被害者を捜さなければならない。 監査対象者リストがあったとしても……あの火事だ。資料がないのだろう。 「もう一人居ただろう? 川音、という子も教えてもらえないかね」 川音大吉(かわねひろよし)。そういえば、大吉さんの名前も出た。彼のおかげで外に出ずに済んだことを喋ったんだ。 そうか。彼は施設から脱出して、警察に保護される前に一人逃げた。 だから名前も知られてないし、姿も知られてない。
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