ぼくとドッペルゲンガーのパラドックス

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「どうしたのですか? また、お得意の『考え事』?」  いつの間に現われたのか、ぼくとそっくり同じ顔をしたそいつは、ちょっと眉を皮肉っぽく動かしてこっちを見おろしていた。  やっべ、自分の世界に入りすぎていたかな。  見上げると、ぼくとまったく同じ色をした赤毛のてっぺんには、雪がわずかに積もりはじめている。手袋もはめていない白い手が、今日の分の袋を掲げて見せた。  袋を持つ手が冷たそうだ。ぼくの手だって冷たい。膝の上の毛布をぎゅっと握る。もちろん、ぼくだって手袋なんて持ってないし。 「『コギト・エルゴ・スム』、なのだよドッペルくん」 「私の名前はドッペルではないと、前にも申し上げましたが……」 「いいじゃないかドッペルくん。名前なんて、大した問題じゃないのさ。個を認識できればそれでいい。うむ。違うかい?」 「どうやら、私と貴方では論理過程において、些少の違いが見られるようですね。仕方がありません。許容します。それより、『ご飯』を摂取しませんか」  ふっと息を吐くようにそいつは『笑って』みせる。まったく、吐き出す言葉すべてが皮肉めいた奴だ。だが、そんなところは『嫌い』じゃない。なにせ、ぼくは、理屈っぽいことにかけては右に出る者がいないことを全力で『誇りに思って』いるからな! ふふん!
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