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マーガレットに電気の姿を知られるのは嫌だ。そもそも電気なんだから姿なんてないけれども。
どう怖がられる? リュのことを嫌いになるだろうか?
やっぱり、駄目だ……。
「そのパスポートってのは、ここで発行できますか」
「はい」
んだとぉ!
ポニーテールの女の人は、変わらず無表情。
「200万クラウン程でお作りする事ができます」
ゲッ!
桁を4つほど間違えているのではないか。
どうすれば!
頭を掻いて天井を見上げたって。
状況が変わらないのはわかってる。
弱ったなあ、ここを遠回りしたら、ちゃんと元の場所、ツツバヤのいる場所に戻れなくなるかもしれない。方位がずれると面倒だ。
「この子達は私らの連れだ。入れてやってくれんかな」
突然入り口から野太い声がした。
振り返ると、そこに居たのは……。
「マヘさん!」
リュが過去にバイトした時の、お客様だった。
豪邸に住んでいて、町の中だけでも別荘がいくつもあるトンデモな地主さん。
白いシャツに、緑と茶の絵の具をこぼしたような柄のスカーフを巻き、こげ茶のズボンを履いているちょっと太ったおじさん。
愛想よさそうな微笑んだ顔が馴染みやすい。
その陰には黄緑のロングワンピースを着た小柄な女の子。
「マーガレットちゃん!」
「あ、ビオマ!」
マーガレットの友達でマヘ家の長女、ビオラさんだ。
「マヘ様! そうですか、お連れのお客様でしたか。すみません、失礼いたしまして。どうかお許しを。上の者を呼んで参りますので、少々お待ちくださってもよろしいでしょうか」
女の人の態度はさっきと打って変わり、キラキラした瞳、精一杯の笑顔、丁寧な対応を取り始めた。
マヘさんってそんなに偉いのか?!
権力ありすぎだ!
「かまわんよ」
「ご希望の飲み物やお食事は」
いきなり『ケチな受付員』から、『対応の利く笑顔営業者』にジョブチェンジしたな……。
「トブくん、マーガレットさん。希望は」
そんな、とんでもない!
「いえ、そんな、要りません。なあ、マーガレット。」
「マー、いま欲しいのは、スニーカー、ハンマー。食べるものは、りんごと麺。大丈夫。んー、なら、ライのにんじん」
こいつ!
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