10人が本棚に入れています
本棚に追加
…いつの間にか眠ってしまったようだ。室内に差し込んできた夕陽の光で目が覚めた。なんだか夢を見ていた気もするけど、思い出せない。
カレンダーの上では春でも、日が落ちるとまだまだ外は肌寒い。だけど防音対策として気密性の高いこの放送室は暖房で効率よく暖められていて、とても眠気を誘う気温になっている。そんな場所で読みづらい本を無理矢理読もうとすれば眠くなるのも仕方がないだろう。
もうスタジオには私しかいなかった。楠見さんや日野先輩は帰ったのかな?
はめ殺しの窓からミキサー室を覗いてみると、藤城くんが1人でテレビを見ている。なんだろう、妙に真剣な表情だけど。あれは過去の先輩たちが出たNコンの大会記録だろうか。
Nコンでは毎回出場校の作品や読みをビデオやレコーダーで記録しておくと、確か榊先輩から聞いたことがある。ミキサー室の扉を開けるとちょうど終わったとこらしく、藤城君はDVテープをプレーヤーから取り出していた。
「何見てたの?」
「ん、昔の先輩が全国行ったときの記録。三吉さん、やっと起きたんだね」
「私そんなに寝てた?もうっ、みんな起こしてくれれば良いのに」
藤城君を含めてみんなに寝顔を見られたかと思うと顔が火照ってくる。みんなのいじわる。楠見さんまで。早く話題を変えよう。
「それはそうと、どうだった?私、まだ大会のテープ一個も見てなくて」
「んー、良かったよ。凄かった」
そういって藤城くんは小さなため息をついた。余韻を噛み締めるように静かな横顔が、いつもに増して大人びていて、ついまじまじと見てしまう。すると、私の視線に気付いた藤城くんはすぐにいつもの優等生らしい雰囲気に戻った。
最初のコメントを投稿しよう!