藤城慎一 - スタートライン -

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僕ら技術部には、アナウンス部のように個人で出場するような枠はない。主にラジオ番組やテレビ番組を制作して出品するというのがメインになる。 ラジオ、テレビ共にドラマ部門とドキュメンタリー部門の2つの他に独自の研究発表部門というものがあり、強豪校になるとこれら5部門全てに出品しているところも多い。しかし、残念ながら北葉高校放送局は強豪校ではない。日野先輩が個人で良い成績を残してはいるが、番組制作での入賞経験は少ない。 最近では何年か前にテレビドラマ部門で全国大会へ出場するという快挙があったらいしが、たった一度の栄光で後には続かなかったそうだ。 今回うちの部では榊先輩が録音編集など技術周りを担当し、八代先輩が脚本やキャスティング等を担当してラジオドラマを作っている。僕ら一年生はその手伝いだ。今日1年生は、榊先輩に録音用の機材セッティングを教えてもらっていた。同じ技術部の道家と秋葉さんも一緒だ。 「榊先輩、このマイクってここに繋ぐんですか?」 「いや、それはこっちに繋ぐ」 「榊せんぱーい、このマイクスタンド固くて高さ変えられないんですけどぉー」 秋葉さんが固いと苦戦していたマイクスタンドを受け取ると、先輩はそれを何の抵抗も感じさせずにひょいと回して高さを調節する。 榊先輩は有り体に言えばガタイが良い。身長は180cmくらいだろうか。がっしりとした肩幅と短髪のため運動部と言っても十分に通じる。というか運動部にしか見えない。ただ、榊先輩はとても口数が少ない。 社交性抜群の八代先輩とは対照的に、用がなければほぼ喋らない。部室ではいつも黙々と作業用のパソコンで何か作業をしているか、1人で宿題などをしているかだった。寡黙な職人。先輩を見ているとそんな言葉が連想される。放送室に居ると、八代先輩も日野先輩も榊先輩を頼りにしているのがわかった。 「よっしゃ、これで完成っすかね!」 「そうだな」 道家の言葉に頷きつつも、気になるところがあるのか榊先輩は機材やコードの位置を微妙に調整する。やがて、よし、と小さなつぶやきが聞こえて、先輩が僕たちに向き直る。
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