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黙々とした説明に飽きたのか、道家が調子に乗って歌いだしてからは、秋葉さんもそれに乗っかってミニカラオケのような状態になってしまった。幸いなことに榊先輩がそれで怒り出すことはなかったけれど、僕と榊先輩は歌に乗るのこともしなかった。
録音担当者は大きめのヘッドフォンを被り、マイクから入る音に神経を集中させる。機材の操作は基本的に録音開始と停止のボタンを押すだけなので何も難しいことはないのだけれど、聞き取りづらい声や、息をはく音が耳障りでないかなど、ちゃんと聞いておかなければならない。この役目は主に制作のリーダーである監督がやるのだという。今回のラジオドラマで言えば脚本を書いてくる八代先輩が監督だ。
「これで機材の使い方はだいたい終わりだ。あとは実際に録音するとき徐々に慣れていけばいい」
「録音はいつするんですか?」
「八代が脚本あげてからだな。今週中には持ってくると思う」
「えー、じゃあ先輩はそれまで来ないんですかぁ?」
「あいつはいつも、脚本を書いてる時は部活に来ない」
だから最近見かけなかったのか。えーそうだったんだー、とわかりやすくため息をついている秋葉さんを気にする事もなく榊先輩は場を締めに入る。
「次回は八代が原稿上げてきたら日程を決める。今日は以上だ」
「あ、先輩」
「どうした藤城」
「いや、僕たち技術部って大会に向けてアナウンスみたいに普段から練習するような事はないんですか?」
「脚本が出来上がれば、録音、編集、効果音録りとかやる事はたくさんあるんだけどな。今は特に」
横で道家が軽くガッツポーズしているのが見えた。暇なのが嬉しのは構わないけれど、表情を隠そうとしないあたりが危なっかしい。それで世の中渡っていけるのだろうか。他人事ながら少し心配になる。
「何かやりたいって言うんなら、昔の大会記録を見たりすれば良い。雰囲気もわかって勉強になる。数年前の先輩がテレビドラマで全国大会へ行った時のテープなんかもあるしな」
「はいはーい、今年はテレビドラマは作らないんですかー?」
秋葉さんの質問に榊先輩は苦笑する。
「お前らが入るまで3人しかいなかったんだ。そんな余裕はなかった。ただ、機材はあるから興味があれば挑戦してみるのも良いんじゃないか」
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