第1章

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東京駅の構内は、帰宅をする人々で混み合っていた。 ちょうど帰宅ラッシュの時間に大雨と強風の影響でいくつかの路線が運休を決めたため、駅は普段よりも更に賑やかな空気に包まれていた。 私はちょうど会社から帰るところで、電車に乗る寸前でその電車が運転を見合わせてしまい、やるせない気持ちでいっぱいになっていた。 台風のような雨風にさらされて髪や服はぐちゃぐちゃに乱れ、一刻も早く帰宅するつもりだったのに、電車の運休で出鼻を挫かれてしまっていた。 幸い、他の路線で振替輸送をしているということなので、私は電車の復旧を待たずに東京駅の長い構内を歩くことにした。 時間と手間はかかりそうだが、少しでも早く家に帰りたかったのだ。 雨でストッキングの色も変わり、パンプスの中にまで水が入り込んでいるようで気持ちが悪かった。 普段は他の路線に乗ることもなく、最短ルートで電車を利用しているため、東京駅の構内を歩くのは久し振りだった。 土産物や総菜店の呼び込みの声につい足が向いてしまいそうになったが、私は混雑の中を黙々と歩き続けた。 人で溢れた構内を少し抜けて、やっと目的のホームまで辿り着くと、恐らく私と同じように振替輸送を利用する人でいっぱいだった。 これでは電車を二、三本は見送るしかない、と覚悟を決めて、私はホームにできた長い列の最後尾に並ぶ。 そこでやっと鞄からハンカチを取り出し、湿っぽくなった鞄を拭って、ついでに乱れた髪も軽く直した。
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