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「凛くんは優しいよね」
雅は絆創膏の貼られた指を、少し触れながらそう言った。
「誰だって、こうするだろうに」
こんなことで俺を優しいだなんて、雅の目は節穴なんじゃないかと思ってしまう。
俺は優しいというよりかは、臆病なだけなんだろう。相手と自分、お互いが傷つくことを恐れて踏み入ったことは話せず、当たり触りのないことばかりの臆病者だ。
「照れなくて良いのにー……って、凛くん大変!」
ふと、雅は手首に目をやると、血相を変えては声を大きくする。正直、ビックリした。
「ど、どうしたんだ急に。手首も切ってたか?」
手首はマズイ。そう、不安を浮かべながら雅に問いかける。
「違う違う! もう、ご飯食べてる暇なくなっちゃった!」
「何だ、良かった」
ふう、と息を吐いて安心する俺。対して、今にも泣きだしそうな勢いの雅。
「良くないよ! あー……私のせいだぁ……」
ガックリと、残念そうにうなだれる。
「まぁ、今日は仕方がない。遅刻する前に行かないと」
「うん……」
そう頷く雅であったが、どうにも納得のいかない様子であった。そんなに、気にしなくても良いだろうに。
「……せっかく、話もしたかったのに」
ボソッと、独り言のように呟いたその言葉であったが、俺の耳にははっきりと届いていた。
「何の話?」
「な、なんでもないのっ! ほらっ、行かないと!」
紛らわすかのようにして、急に動きが機敏になる。というか、話ならいつでも出来るんじゃないのか。
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